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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)9910号 判決

原告

坂本武男

被告

三洋輸送機工業株式会社

主文

一  被告は原告に対し、金二〇万三六七六円及びこれに対する平成三年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二八分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金五六九万七六六〇円及びこれに対する平成三年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告の経営する新聞販売店の従業員が原動機付自転車(以下「原告車」という。)を運転中、被告の従業員が運転する普通貨物自動車(以下「被告車」という。)と衝突し、原告の従業員が負傷した事故について、原告が被告に対し、民法七一五条に基づく損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実

交通事故の発生

事故日 平成二年七月三一日

場所 大阪市西淀川区御幣島一丁目九番一五号先路上

態様 高見保輝が原告車を運転中、桑原徹の運転する被告車と衝突し、高見が負傷した。

二  争点

1  原告の損害額(車両損害、代替従業員給料、代替従業員赴任交通費、企画挫折損害)(被告は、車両損害を除く各損害については、本件事故と因果関係がなく、あるいは特別損害で被告に予見可能性がないので賠償義務がないとし、車両損害については、修理費が相当であると主張する。)

2  過失相殺(被告は、高見が交差点内の安全運転義務を怠つたことが本件事故発生の一因であるとして二〇パーセントの過失相殺を主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一、乙一、二の1ないし8、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、東西に伸びる上下二車線の道路(以下「東西道路」という。)と、南北に伸びる上下四車線の道路(以下「南北道路」という。)とが交差する信号機の設置されている交差点である。被告の従業員である桑原は、本件事故当時、被告の仕事で被告車を運転して東西道路を東進し、本件交差点を右折して南北道路を南進するため、本件交差点の西詰停止線から約三二・三メートル西側の地点で対面信号が青信号であることを確認したうえ、右折の合図をし、西詰停止線付近でハンドルを右に切り、時速約二〇キロメートルの速度で約三・七メートル進行したところ、本件交差点内を時速約三〇キロメートルの速度で対向西進してくる高見の運転する原告車を左前方約九・八メートルの地点に発見した。このため、桑原は、急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の右前部と原告車の前部とが衝突し、原告車は、その付近に転倒した。本件事故当日、高見は、松本病院で治療を受けたが、右病院の医師は、右股関節脱臼骨折、左膝打撲擦過創、頭部外傷の病名で、本件事故当日から約六〇日間の入院加療を要する見込みであるとの診断をした。

二  責任

前記一の認定事実によれば、被告は、民法七一五条に基づき、本件事故に関して原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  車両損害 五万四五九五円(請求一三万三九〇〇円)

本件事故当時、原告は、原告車を所有していた。本件事故の結果、原告車は、前部取付かご、前輪フオークが後に押されて曲損したが、右破損は、五万四五九五円(消費税を含む。)の費用で修理することができる。原告は、本件事故で破損した原告車の代替車を本件事故後の平成二年八月九日に一三万三九〇〇円で購入した(甲三、乙一、二の4、弁論の全趣旨)。

右認定事実によれば、原告の車両損害に関する請求については、右修理費五万四五九五円の限度で本件事故との間に相当因果関係を肯定すべきであり、右金額を超える買替費用部分については、相当因果関係が認められない。

2  代替従業員給料 二〇万円(請求五一万三〇〇〇円)

原告は、本件事故当時、大阪市西淀川区野里と同区御幣島の二か所で新聞販売店を経営していた。高見は、平成元年一〇月から原告の従業員であり、御幣島店の責任者として配達、集金、労務管理などの業務に従事していた。高見は、本件事故のため、本件事故当日から平成二年一〇月三〇日まで入院した。このため、原告は、高見の代わりをする従業員が必要となつたことから、平成二年八月一日から同月三一日までの間、高知県中村市から佐田裕重に来てもらい、その間の報酬として佐田に五一万三〇〇〇円を支払つた(甲二の1ないし3、原告本人)。

右に認定した本件事故当時における高見の御幣島店における地位、労務内容と、前記一で認定した高見の受傷内容、程度からすると、原告が高見の代替従業員を雇う必要性があつたと解されるが、本件事故当時、原告が高見に支払つていた給与額と、佐田に右報酬を支払つていた期間中の高見に対する報酬支払の有無とがいずれも証拠上不明であることからすると、原告の代替従業員給料に関する請求については、二〇万円の限度で本件事故との間に相当因果関係を肯定すべきである。

3  代替従業員赴任交通費(請求五万七六〇円)

原告の請求する代替従業員赴任交通費の具体的金額を認めるに足りる証拠はないうえ、右交通費と本件事故との間に相当因果関係があるとは解されないから、右請求は理由がない。

4  企画挫折損害(請求五〇〇万円)

原告は、本件事故当時、高見をリーダーとする生活情報誌の出版、販売、広告、通信販売の事業を計画し、平成三年四月には、右事業のための会社を設立したが、高見が本件事故に遭い、退職したために右計画が挫折し、そのために五〇〇万円を下らない損害が発生したと主張する。しかし、仮に右主張の損害が発生したとしても、右損害と本件事故との間に相当因果関係があることを認めるに足りる証拠はないから、原告の右請求は理由がない。

四  過失相殺

前記一で認定したところによれば、桑原は本件交差点を右折する際、対向直進してくる車両等に充分注意して右折進行すべきであつたのにこれを怠り、本件事故を発生させた点で過失は大きいが、他方、高見も本件交差点を通過する際には、対向右折車の動きに充分注意して進行すべきであつた点で過失があるといわなければならず、右の諸事情を総合すれば、本件事故発生について、高見には二〇パーセントの過失があり、これに前記三1(車両損害)、2(代替従業員給料)で判示した原告と高見との雇用関係、原告車の所有関係からすると、高見の右過失を原告側の過失と評価するのが相当である。そうすると、二五万四五九五円(前記三1、2の損害合計額)に右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、二〇万三六七六円となる。

五  以上によれば、原告の請求は、二〇万三六七六円とこれに対する本件訴状送達の翌日である平成三年一二月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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